ロビン・クックの小説にアウトブレイク(感染)というタイトルのものがあり、同名の映画として制作されました。アウトブレイクはエボラ出血熱が主役でしたがこちらの対象は鳥インフルエンザです。
感染爆発 鳥インフルエンザの脅威
マイク・デイヴィス著 柴田裕之 斎藤隆夫訳
紀伊国屋書店発行 2006年3月9日第1刷
ISBN4-314-01001-0
副題の通り、メインの話題は鳥インフルエンザです。
1918年のパンデミック、いわゆる「スペイン風邪」から現在に至るまで、インフルエンザウイルスに対する治療法はワクチンによる予防か、抗ウイルス薬の一部しか対処できません。インフルエンザウイルスの場合、抗ウイルス薬への耐性ウイルス変異株の発生率が高いため、ほとんどイタチごっこの状態です。
その中でH5N1型の鳥インフルエンザのヒトへの感染、さらにこのウイルスのヒトからヒトへの感染性が危惧されている状態ですが、H5N1型は宿主へのダメージが大きいため従来の鶏の受精卵を使用したワクチンが作製できないそうです。
また該当事例がはっきりとは確認はされていませんが、飛沫感染(空気感染)による伝染能力がある場合、世界中で数百万どころか世界人口の数パーセントが失われる可能性もの見逃せず、グローバル化の進んだ現在では一度患者が発生してしまった場合は、数日でパンデミック(世界的な流行)に至る事は避けられません。
インフルエンザを「ちょっとひどい風邪」とタカをくくって甘く見ていると大変なことで、宿主毒性の強い株だとあっという間に遺体を焼却場で処理するのが間に合わないぐらいの死亡者が発生します。
抗ウイルス薬のホープ「タミフル(オセルタミビル)」も絶対量が足りず、パンデミックが発生した場合、必要量が行き渡らないことも懸念されています。インフルエンザウイルスの増殖サイクルの中にあるノイラミニダーゼ(H5N1のNの部分)阻害を行うことで感染・増殖を抑えるタミフルですが、ロシュが独占製造しています。この薬剤は出発原料が植物由来であることから、その年の天候によって生産量が左右されるというところももどかしいところです。
これはタミフルはスターアニス(和名:トウシキミ、中華系の香辛料では大茴香または八角と呼ばれる)に含まれるシキミ酸を出発物質として生産されているためです。最近、このシキミ酸を東京大学大学院薬学系研究科が石油由来(これも不安)の出発物質から合成経路を開発したそうなので、一条の光が残されています。
備えあれば憂いなしと言いますが、流行するかどうかわからない伝染病に対して、どこの政府も予算をとらず、発生しても制圧できると踏んで十分な準備をしていないと、著者は嘆いています。
発生してからでは遅いものに対して経済原則に従っており、社会的責任に対する倫理観の低い昨今の製薬会社は積極的ではないため国が主導して薬剤などの確保をしなければならないのですが、どこの国の(もちろん日本も)同じ状態のようで、パンデミックに至る可能性は非常に高いのが現状です。
流行したら外に出ないというのも感染予防の一つの方法ですので、引きこもりには朗報かも(笑、イヤ、ほんとです)。
小松左京さんの「復活の日」を彷彿させます。
マクロファージだっけ。
小説が書かれた当時の通信手段、アマチュア無線が全盛でした。
「復活の日」も新型インフルエンザウイルスという設定でした。
SFとは言え、広汎な哺乳類・鳥類などの種に感染、宿主を死に至らしめる毒性の強い株だと、あながちフィクションとは言い切れない所が・・・。
ポケットに忍ばせたアンプル1つを持って航空機に乗り、機内で開封する。たったこれだけで、この世界に脅威をもたらすバイオテロは簡単に実行できる事が恐ろしい。