またもや疑似科学・似非科学関連の本です。
マーチン・ガードナー著 太田次郎監訳 光文社刊
インチキ科学の解読法 ついつい信じてしまうトンデモ学説
原題「DID ADAM AND EVE HAVE NAVELS?(アダムとイブにへそはあったか?)」
2004年8月31日 初版第1刷発行
ISBN4-334-96170-3
著者のマーチン・ガードナーですが、サイエンティフィック・アメリカン(日本では日経サイエンス)のコラム、「数学ゲーム」の著者として多くの方々がご存知かもしれません。
今回取り上げた本書と同様な趣旨の著書として「奇妙な論理」(早川書房)もあり、CSICOP(超常現象とするものを科学的に調査する委員会)が発行する機関紙(スケプティカル・インクワイアラー)の常任執筆者として、疑似科学などへの批判活動を精力的に行っていることもあり、かなり辛口な意見で占められています。
曰く(以下ページ番号のページから引用)
(p.22~コートニー・ブラウンのSRV)
私がブラウンの本より”おかしい”と思うUFOに関するそれ以前の本は、ただ一冊、ジョージ・アダムスキーの『宇宙船にとらわれて』(一九五五年)である。アダムスキーはUFOに誘拐されていたとき、月の向こう側の繁栄している都市を見たという。アダムスキーはもちろん大ほら吹きだったが、ブラウンは彼が書いたことを真に受け、信じてしまった。アダムスキーの本もブラウンの本も、一〇歳の子供が一生懸命に書いたSFといったところであろう。
(p.109~NEOより引用)
地球を壊滅させる地球近傍物体をテーマにしたSF小説は、その後、数え切れないほどたくさん出てくる。映画ではニューヨーク市はNEOによって二度、破壊されている。一九七九年の「メテオ(Meteor)」では、ニューヨークは完全に壊滅するが、あれはショーン・コネリー、ナタリー・ウッド、ヘンリー・フォンダ、トレバー・ハワードの才能をむだ遣いした退屈な作品であった。
と、辛口を通り越して毒舌といえなくもありません。
監訳者の言葉にありますが、本書の原書は実際は28章からなっているのですが時事性や馴染みやすさという視点で数章を削除してしまっている点(監訳者あとがきに記載)が残念です。過去の話であろうと、アメリカ独自の事情であろうとそれもまた原著者の示している文章ですので全て翻訳本として刊行してほしかったと思います。
原書で割愛した章や章立て順序の変更などを原著者に了解を取ったのかどうか疑いたくなる順序の入れ替えがあります。また未掲載の章についても削除に値する判断に客観性があったかも疑問に思えるくらいです。
オリジナルの章立てと内容は以下の通りです(カッコ[]内は邦訳本のタイトル)。
まさに原書の第1章が書名になっているのですが、邦訳の書名と各章のタイトルはちょっといただけません。また各章のタイトルに副題が添えられているのですが、原書ではタイトルそのものが全てを示しています。
Part I Evolution vs. Creationism [進化論 vs. 創造論]
1. Did Adam and Eve Have Navels? [アダムとイブに、ヘソはあったか?]
2. Phillip Johnson on Intelligent Design [インテリジェント・デザイン運動]
Part II Astronomy [天文学]
3. Near-Earth Objects: Monsters of Doom? [NEO(地球近傍物体)]
4. The Star of Bethlehem [ベツレヘムの星]
Part III Physics [物理・技術]
5. The Great Egg-Balancing Mystery [ダナ・へネスの信念]
6. Zero-Point Energy and Harold Puthoff [ハロルド・パソフの大研究]
7. David Bohm: The Guided Wave [ボームの貧しい生涯]
Part IV Medical Matters [民間療法]
8. Reflexology: To Stop a Toothache, Squeeze a Toe! [リフレクソロジー]
9. Urine Therapy [復活する尿療法]
Part V Psychology [心理学]
10. Freud's Flawed Theory of Dreams [色あせたフロイト]
11. Post-Freudian Dream Theory [夢の新しい謎]
12. Jean Houston: New Age Guru [未掲載]
Part VI Social Science [社会科学]
13. Is Cannibalism a Myth? [人食い人種]
14. Alan Sokal's Hilarious Hoax [未掲載]
15. The Intenet: A World Brain? [インターネット時代]
16. Carlos Castaneda and New Age Anthropology [カルロス・カスタネーダの亡霊]
Part VII UFOs [UFO]
17. Claiborne Pell, Senator from Outer Space [未掲載]
18. Courtney Brown's Preposterous Farsight [コートニー・ブラウンのSRV]
19. Heaven's Gate: The UFO Cult of Bo and Peep [「天国への門」]
Part VIII More Fringe Science [該当章はなし]
20. Thomas Edison, Paranormalist [伝記に書かれていないエジソン(物理・技術に収載)]
21. What's Going On at Temple University? [未掲載]
Part IX Religion [宗教]
22. Isaac Newton, Alchemist and Fundamentalist [宇宙を微調整する指]
23. Farrakhan, Cabala, Baha'i, and 19 [未掲載]
24. The Numerology of Dr Khalifa 「カリファ博士の数秘術」
25. The Religious Viwes of Stephen Jay Gould and Darwin [未掲載]
26. The Wandering Jew [さまよえるユダヤ人]
27. The Second Coming [懲りない予言者たち]
Part X The Last Word
28. The Science and the Unkowable [エピローグ~永遠にわからないこと]
本の内容は興味深いテーマで大変面白く書かれており、マーチン・ガードナーの面目躍如といった所です。ただし日本人からすると西洋社会的な面のみが取り上げられているのでなんとなく日常目にする疑似科学類から乖離していると見えるかもしれません。
しかし、出回っている多くの事象をカバーしているため、充分読み応えもありますしインチキ科学を見抜く啓蒙書としてもよいガイドを示していると思います。
願わくば第2版で残りの章を追加し、章立てとともに原書と同じ順序で発行していただくことを望みます。