最近よく目にするようになった言葉ですが提唱されたのは結構前です。
武村政春著 講談社ブルーバックス B1544
生命のセントラルドグマ 〜RNAがおりなす分子生物学の中心教義〜
2007年2月20日 第1刷発行
ISBN978-4-06-257544-7
セントラルドグマとは・・・
セントラル–ドグマ〖central dogma〗
遺伝情報の伝達·発現に関する分子生物学の一般原理。遺伝情報は核酸から蛋白質へと流れ、逆流することがないとする。一九五八年にF=クリックが提唱。中心教義。中心命題。中心ドグマ。
三省堂 大辞林 CD-ROM版 より
この本では遺伝子でもなくタンパク質でもなくRNAを中心として分子生物学的立場から解説をされています。
よくDNAの4種類の塩基からコードされてタンパク質がリポソームで合成されるとさらりと書かれてしまっていますが、実のところは各種のRNAが複雑に関連する分子たちと相互作用を行う大変微妙なシステムなのです。
DNAから出発して最終的にアミノ酸からタンパク質が作られる過程の現状解明されている部分をその主役たるRNAを主人公にして丁寧に解説してくれています。
中でも「はぅ」とさせられた文章があり、大変印象深かったので引用させてもらいます。
p.156から抜粋・引用
科学番組などで放映されるコンピューター・グラフィックスでは。あたかも一つの分子が、ある目的をもってもう一つの分子のところへ自発的に移動し、そこでうまく相互作用しているように描かれる事が多い。
〜中略〜
しかしながら、あれはおおいに間違ったイメージである。細胞のなかはあのような「スカスカ」状態ではなく、じつはさまざまな分子がひしめきあっている。
将にそのとおりなのです。実際の分子間相互作用の分子動態シュミレーションを行う場合、真空中であるかのごとく計算を行います。それでもかなりな計算量があるのですが、忘れてはならないものがあります。
それは水。
生体細胞内は多大な水分子で満たされており、タンパク質などもすべて周囲に水分子が取り巻いている中で相互作用が行われるわけです。NHKスペシャルなどで描かれる細胞の中はまるで宇宙空間をパイロットが操る宇宙船かのごとく酵素などが活躍していますが、まるっきり実際とは違うわけです。ブラウン運動が示すように、アトランダムな分子の運動の結果で偶然有効な相互作用が行われるわけで、あのようにすいすい目的の分子が移動する事はあり得ないのです。
計算能力の向上から周囲に水分子を配した状態で分子動態をシュミレーションする事が始まりましたが計算量は膨大になり地球シュミレータークラスでも簡単には動態を解析できないのが実情です。
また、生命の元として取り上げられるのがタンパク質です。
現在DNAを元にタンパク質の解明は進んでいるのですが、それでは判らない部分が実は暗黒物質のように存在します。
それは糖を中心とした生体内分子である糖鎖です。またタンパク質に糖が付いた(修飾された)ものもDNAを調べているだけでは判りません。出来上がったタンパク質の動態を調べないと判りません。
現在タンパク質の陰に隠れた糖鎖を中心とする研究はその入口に付いたばかりであり、これからの解明が期待されます。
実際に糖鎖を利用した医薬品なども徐々に製造されているようですので、今後の発展次第ではタンパク質と並ぶ分子生物学の基礎の一翼を担う事になるでしょう。
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