ヒトの身体ははたして成功した進化の結果なのか、失敗した進化の結果なのか。
遠藤秀紀 著 光文社刊
光文社新書 「人体 失敗の進化史」
2006年6月20日 初版第1刷発行
ISBN4-334-03358-X
途中でなにか読んだ事があるというデジャヴに似た感覚に教われました。
それもそのはず、以前に同じ著者の「パンダの死体はよみがえる」という本を読んでいたからです。
動物園で飼育している動物が亡くなったらすぐに貰いに飛んで行くという大変アクティブな方です。
様々な動物を解剖してきた著者による比較解剖学的観点による動物間の骨や器官の進化の歴史を読み解いて行きます。
心臓や顎と言った器官の由来を探る導入部分には自宅でできる進化の元の確認ということで晩ご飯のオカズ、サンマをバラして(解剖して)観察しようと言う大変ユニークな視点で説明しています
その他にも斜に構えてシニカルに表現されている部分もあり、淡々と語られる学術調のものを予想していると面食らうかもしれません。
羽毛というのは、皮膚から生える、その付属物だ。実態はケラチンの硬い構造物だ。ケラチンと聞いて化粧品や育毛剤の宣伝を思い浮かべた方は、いい線を突いている。鳥の羽毛は、私たちでいう髪の毛や爪、あるいはフケとして剥げ落ちて行く皮膚の表面の硬い部分の親戚だと考えることもできる。つまり鳥は、骨や筋肉といった本当の運動装置とは縁の無い皮膚の一部を、空を飛ぶための運動装置に用いてしまっているのである。鳥の翼が、中年親父愛用の毛生え薬に貼ってあるラベルと二重になって見えてはこないだろうか。
[本文p.112より引用]
ちょっと穿った視点で語られる文章は軽快で楽しく一気に最後まで読み進めてしまいます。
前半は肩の構造、心臓、顎、耳小骨、肺、四肢、翼などといった部分の説明がなされますが、タイトルの示す通り後半の大半の部分を占めてヒトを作りあげて逝く過程を考察・解説してくれています。
最後の章でヒトの欠陥部分を指摘しています。「何度も何度も消しゴムと修正液で描き変えられた、ぼろぼろになった設計図の山だ。」と。
ヒトの身体、巧く出来上がったように見えますが所詮は狩猟生活のための身体。現在のように精神生活が終始されて動かさなくなった社会生活では多大な無理が生じているようです。
ああ、肩が凝る。って、これも進化の結果なのかなあ。
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