ちょっと内容が偏っていますが、仕方が無いでしょう。
ペキー・キドウェル+ポール・セルージ著 渡邉了介訳 ジャストシステム刊
目で見るデジタル計算の道具史~そろばんからパソコンまで
原題
LANDMARKS IN DIGITAL COMPUTING
by Peggy A. Kidwell & Paul E. Ceruzzi
ISBN4-88309-096-5
とにかくデジタルです。中途半端なことは許しません(笑)。
というわけで、計算の道具として歴史上に現れた中でも計算尺やアナログ計算機はこの本の中には登場しません。また、一部デジタル制御という範疇も含まれています。
キープやネーピアの棒などの古代から利用されていた計算補助具から始まり、ジャガードの織機、ホレリスの統計システム、エニグマ暗号機、ENIAC、UNIVAC I、IBM System/360などのお約束の機械、続くミニコンのPDP-8やVAX-11のほか、ICBMのミニットマンに搭載された誘導制御コンピュータ、小型化で計算機というものを大衆化した電卓(HP-35やHP-41Cなども)、そしてパーソナルコンピュータ、Macintoshの原型となったAltoやスーパーコンピュータとしてはあまりにも有名なCRAY-1、今日のUNIXベースの分散環境のさきがけとなったSUNなどのワークステーションと時代を追い広い範囲で計算をする道具としての機械を丁寧に紹介しています。
ただし、コンピュータの元祖は何かという点では執筆当時ではまだもめていたアタナソフ・ベリーのコンピュータであるABCマシンはまったく触れられていません。執筆当時の1994年に裁判の係争の結果、最初のコンピュータの座はENIACではなく、ABCマシンになった事にはまったく触れられていません。実際、プログラム内蔵方式のコンピュータとなるとEDVACが最初でしょう。
基本的にスミソニアン博物館を運営する母体であるスミソニアン協会が多大なバックアップをしていることから彼らの視点を主として描かれている点は考慮しておく必要があります。
特に後半のメインフレームの集中処理からワークステーションやパーソナルコンピュータの分散処理という変遷は執筆された時期が時期だけに、時代の流れの中に入っていません。
またマイクロコンピュータで大きな役割を果たした嶋正利がかかわったインテルの4004や8080、Z80などの初期のマイクロプロセッサラインアップについては嶋氏のかかわりを完全に無視しているかのごとく記述がありません。うがった見方をすれば日本人の功績を無視しているとも取れます。国立科学博物館に行くと部分ですが展示されているFUJICについてはまったく記述が無く、年表にも現れません。あくまでもスミソニアンの史料に基づく原則があったのでしょう。
歴史として語られるのは1985年までです。執筆されて原書の発行が1994年という点を考慮すると1990年ごろまでの激動の歴史がはずされてしまっているため、後半は尻切れトンボ的な感想が否めません。
史料としてみるか、資料としてみるか、読み物としてみるか。
無責任ですが本書を読んだ人に判断はお任せしましょう。
この本、図書館へリクエストしました。
待ちなし。 どなたからも予約はなかったようです。
あまり人気がないのでしょうかねぇ、こういう類いの本は。
ある意味、科学史なんですが、どうも科学に関する「今に至ったわけ」というのに興味が無いのかなぁと感じています。
むろん、何が正しいかというのが時代とともに変わってしまうので、過去は葬り去りたい(笑)というバイアスが架かっているのかもしれませんけれども。