よくちょっとイカレてしまったような人をぶっ飛んだ奴だと言いますが、本当に飛んでます。
マイク・ミュレイン著 金子 浩訳 化学同人刊
ライディング・ロケット(上・下)
ぶっとび宇宙飛行士、スペースシャトルのすべてを語る
2008年2月10日 第1刷
原題:
RIDING ROCKETS
The Outrageous Tales of Space Shuttle Astronaut
by Mike Mullane
けっこう分厚い上下本で、なかなか読むのに時間がかかりました。
それと元の文体がそのようなものなのか、訳者の意図したものなのかは分りませんが、文章に改行が少なくページがびっしりと文字で埋まっているのも時間がかかった原因です。たぶん原文に忠実に改行位置をそろえたのだろうと思いますが、かなり読みにくいのです。文章の1ブロックが大きく、間欠的に読んでいる場合にちょっと目をそらすとどこまで読んでいたか見つけるのに苦労をします。
本書はミッション運営側でなくミッション遂行する現場の側から見たスペースシャトルの実情が描かれています。しかも飛ばされる(笑)側からです。平たく言うと宇宙飛行士の書いた文章ということなのですが。
再帰還・再利用型のロケットであるスペースシャトルが運行開始する前、搭乗宇宙飛行士を募集したところから著者が引退するまでをつづっています。当然ですがチャレンジャーやコロンビアの悲惨な事故にも言及している箇所もありますが、一番の悲惨なことは、毎回打ち上げられるスペースシャトルに全くの成功の保証が無いため、打上に臨むたびに強烈なストレスと打上延期に伴う脱力感、それに飛ぶ側の準備の煩雑さなど、当事者でないとわからないような責め苦ともいえる事実が記されていることです。
上巻の途中で記されている話の中に打上が再々延期された挙句、やっと打上開始となって飛び立とうとしたときにスペースシャトルのメインエンジンがストールしてしまい打上開始中に中止したエピソードが紹介されています。このときは固体ロケットブースター(SRB)が点火される前で九死に一生を得ていますが、SRBが点火された後だともう、メインエンジンが2基停止した状態で打上シーケンスが進んでしまうと取り返しがつきません。エンジン不調で火災が発生するなどにいたると、まさに巨大ダイナマイトのそばで椅子にベルト固定されて逃げられない状況だったと漏らしています。
ロケットとは、巨大打上花火に人をくくりつけて宇宙まで持っていくだけなのですが、それをコントロールして確実にするために莫大な技術と費用が投入されているのです。そこにどこまで安全性を求めるか、確実性を求めるかという部分に最大のトレードオフが求められます。
実際、低コストで再利用でき、定期便的な運用をもくろんでいたスペースシャトルですが、宇宙へ上げるテスト飛行なしに初回から人を乗せて飛ばしたこと。また途中から2席だけあった乗員の脱出装置も取り外され、万一の時にはかならず道連れにされる大変危険な乗り物だったことなど、安全性の基本的な部分が置き去りにされたまま打ち上げ始められた点も指摘しています。実際に再利用型ではなく1回ごとの使いきりがたのほうが安く付くことからスペースシャトルも終了することが予定されているぐらいですので、そうとうなコストオーバーだったのでしょう。
あまりうれしくない話ですが、NASAの人事的な内部事情もいろいろとりあげられており、ゴシップ好きな人にはこちらのほうが楽しいかもしれません。
ボリュームもあり、やや読みにくい点もありますが、ちゃんと気構えしていれば一気に通読してしまえる本です。残念ながら私は時間がとれず継ぎ足し状態でした。
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