古書でしか入手できないと思われますが、楽しく読めました。
高斎正著 徳間文庫
ホンダがレースに復帰(カムバック)するとき
1981年1月15日 初版
ISBN 0193-577144-5299
何気なく予備知識もなしに読み始めて「あれ?」と思いました。
かなりドキュメンタリー的な内容にも関わらず、心理描写や登場人物の言動があまりにもリアル過ぎなのです。監督も1960年代に参戦していた中村氏。よくよく確認すると「本格的レース小説」というフィクション小説でした。
架空のマシンRA303。CVCC技術を確立したベースを駆使して低公害エンジンのCVCC搭載V12気筒3バルブDOHCエンジンでホンダがF1にカムバックするというシチュエーションでスタート。登場するドライバーに技研の日本人ドライバーが登場して参戦するという当時ホンダを熱烈に応援し、F1撤退から再度参戦を願っていたファンの視点からホンダがF1レースに再度参戦するという場合にどのような展開をしてほしい、もしくはするのではないだろうかというベースで描かれた小説です。
ホンダ学園のF1エンジン始動デモで行っていたV12気筒エンジンはかなり後期のエンジンで、参戦当初のレギュレーションではなかったことから、「おかしいな?」と思いながら読み進めていたのですが、ホンダがF1という状況、登場人物に実際の人物と同じ名前が出てくる事もあり、ワクワクしながら読み進みましたがどうもしっくり来ませんでした。ホンダの社員であり、日本人ドライバーが参戦していた記憶が無い事もあり、発行年月とともに見ると、どうやら参戦前にホンダがF1に再参戦するとしたらという前提で描かれた小説だという事が判明(それでも2回読み返しましたが)。
しかしながら当時の状況としてF1へホンダが再参戦してほしい。どうせ参戦するなら最高峰であるフォーミュラー1。しかも「レースは実験場」というコンセプトから描かれた状況で社員でドライバーでエンジン開発者という人物を中心に描かれた葛藤とドラマが大変面白いのです。
ドラマの中では苦悩する技術開発者でありドライバーである担当者の「藤山(たぶん富士山「ふじやま」のもじり?か、往年の本田宗一郎に関連する藤山一郎と重ねた?)」苦悩が描かれており、レースというシーンへの過酷な状況なども合わせて克明に描写されます。実際にカムバックした状況とは異なるのですが、いわゆる「ホンダドリーム」を垣間見させてくれるホンダファンに向けた小説と言えます。
小説のベースは1968年に撤退したV12エンジン搭載のRA302の延長で描かれています。
実際にはホンダはこの書籍が発行された後すぐの1983年に参戦開始。小説の舞台に示された通りF2へのエンジン供給などを経て再参戦なのですが、エンジン供給メーカとしての復帰です。当時の供給エンジンはRA163E。80度V8の1500ccターボユニット付きのエンジンでした。
シャシーも含めて参戦したのは再度撤退したその遥か後、RA099としてフルコンストラクターとしての参戦が1999年からです。
時代背景と当時の状況を想像すると、いかにホンダらしいF1復帰、参戦状況、ドラマの展開というのが描かれたのかが想像できます。
ホンダファンのためのホンダドリームを見たい状況だったのでは無いでしょうか。
過去に振り返って技術展開などの差異や、状況などの違いはありますが、以前にご紹介した実録である「ホンダ二輪戦士たちの戦い」とは違うフィクションとして見ても十分面白い本でした。
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