迷走本棚の最近のブログ記事

確定か不確定か

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 最近ちょっと賑やかしかったので確認の意味も込めて通読。

ハイゼンベルクの顕微鏡
 石井 茂著 日経BP刊
 ハイゼンベルクの顕微鏡
 不確定性原理は超えられるか
 2006年1月5日 初版1刷 発行
 ISBN4-8222-8233-3

 世界は不連続だという量子力学の世界では余りにも有名なハイゼンベルクの不確定性原理。

 不確定性原理と小澤の不等式などに至るまでの言及される人物は蒼々たるメンバーで、タイトルに冠せられているハイゼンベルクを始め、ボーア、アインシュタイン、パウリ、シュレディンガー、ド・ブロイ、ゾンマーフェルト、ヒルベルト、ディラック、プランク、ラザフォード、ボーム、ボルンなどなど、理論物理学や量子力学に関連して一度は耳にした人たちが続々登場してきます。
 20世紀初頭から大躍進した量子力学にからめて歴史的な経緯を交えて、登場人物がどのように関わっていたかなどを非常に分りやすく説明してくれています。アインシュタインなどが原爆開発に関わった経緯やナチスドイツとの関連なども描かれており、単なる物理学の解説書ではありません。

 ハイゼンベルクの不等式

 εqηp ≧ h/4π

 測定する物体の位置の誤差と位置を測定する事により生じた運動量の乱れの積はh/4πより小さくならないという事を示しており、不等式の形をしています。
 これに対して小澤の不等式は

 εqηp + σqηp pεq ≧ h/4π

という不等式になり項が増えています。この式によりハイゼンベルクの不確定性原理を超えて正確に位置と運動量という二つの物理量を誤差なく測定できるという意味が秘められています。
 実際に、量子暗号などの世界ではすでに活用されていて、EPR相関の矛盾を解消し、実用的な絶対に破られない暗号として実装され始めています。

 物語中にも記載があるのですが、ハイゼンベルクは1932年に31歳の若さでノーベル物理学賞を受賞しました。しかし、受賞理由が不確定性原理ではなく、「パラとオルトという水素の発見に導いた量子力学論を創ったこと」という、全く異なる受賞理由だったということです。これはアインシュタインも同じで、相対性理論により受賞したのではないという、当時のノーベル賞委員会のプライドと言うか皮肉とも思える物理学に対する偏見を垣間見ることが出来ます。

 この本で、相間さんと呼ばれる人種が居るのをはじめて知りました。
 これは「相対性理論は間違っている」という主張する人たちを指す言葉だそうです。
 さすがに量子力学は間違っていると主張する「量間さん」は聞いたことがないそうですが、小澤の不等式が日本人発ということから、市中の自称物理学者たちが「量間さん」になってきそうな気がします。

星を継ぐもの02

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 もう、原作もへったくれもなしの星野節炸裂状態です。

星を継ぐもの02
 星野之宣著 J.P.ホーガン原作 小学館ビックコミック刊
 星を継ぐもの 02
 2011年12月5日 初版第1刷発行
 ISBN978-4-09-184320-5


 さあ、どうしたものでしょう。
 前回の原作との相違する点をさらに広げて独自の展開を行っています。 この記事を書くために表題となっている原作の「星を継ぐもの」だけではなく、三部作となる続編の「ガニメデのやさしい巨人」「巨人たちの星」を参照しないとならない状態になっています。

 まず、当初から地球の月とミネルヴァの月は同じであり、ミネルヴァが破壊され放浪の旅に出た月が地球の引力につかまり、衛星系を形成したという話から始まりますが、これはシリーズ初刊であり、コミックスのタイトルでもある「星を継ぐもの」の巻末近く、最終の謎解きの答えとして出てくるエピソードで、原作のストーリーと順序がまったく入れ替わってしまっています。
 また、原作中では地球に5万年前まで衛星が存在しなかったという事実を提示しただけでそこから提起される種々の論理的帰結を導き出すものについては原作では一切記載がありません。

 すこし細かい指摘になりお見苦しい点があると思いますが、個別の事案に対する相違を少し列挙してみたいと思います。

ミネルヴァの植物の再現
コミックス中では見つかったガニメデ宇宙船の捕獲した動物の檻の下の敷物にあった植物の再現映像として紹介されるが、原作では二作目の「ガニメデの優しい巨人」において、それらの中から種を見つけたダン・チェッカーが栽培を行い再生したことになっている。コミックスで再生担当のアンリと呼ばれる男性は原作では担当者でもなんでもない研究チームの一員であるアンリ・ルソンと思われる。
ガニメアンの宇宙船探索
コミックスでは前巻の流れからガニメデに移動したクリスとダンチェッカーが探索に参加しているが、原作では先行して到着していたジュピターIVの部隊により探索が行われ、ガニメアンの遺体などを見つけるため発見と探索の描写内容が全く異なったものになってしまった。
実際の探索で見つける前に頑丈なドアをこじ開ける描写があるが、コミックス中では未探査領域から先に滑り落ちたクリスとダンチェッカーが発見したことになっており、原作ではまだ彼らは地球に居て情報を得て地球上で検討を行っている状況であり、原作と完全に異なる。
シャピアロン号と接触
ガニメアンの宇宙船である「シャピアロン号」と接触し、生きたガニメアンと交流が始まった。
原作では二作目にあたる「ガニメデのやさしい巨人」の初頭に出てくるエピソードである。原作中ではすでにハントらはガニメデに到着しているので遭遇の瞬間に立ち会っているシーンで、遣わされた小型船のスクリーン中でガニメアンの姿を見ることになるが、コミックスでは映像信号として直接送り込まれて再生され、彼らの姿を多くのスタッフが見る事になる。
コミックスではいきなりシャピアロン号に移動して交流が図られるが原作ではまず小型船のスクリーンを介して開始、その後にシャピアロン号へ訪問である。また、訪問時にダンチェッカーは本人の希望によりそのメンバーに入らないのだが、コミックス側ではまったく逆で、自ら志願して訪問している。
月が無かった時代の地球上の生物の進化の推論
この部分は完全に星野節全開といえます。原作にはこのような考察に関する記述は一切見当たりません。コミックスの中でも相当数のページを割いていることから星野氏がもっともやりたかった・描きたかった部分だと思われます。
この48ページにも及ぶ第10話・恐竜パラドックスは原作には全く無い、星野氏の創作によるものです。
ブローヒリオ登場
前巻のニールス・スヴェレンセンに続き、ジェヴレンの親玉であるブローヒリオ閣下(笑)も登場してしまいます。原作では三作目の「巨人たちの星」でやっと登場なのですが、トリックスターとして平和委員会を登場させていることからその延長で進めているのでしょう。
ガニメアンの肌が肌色
登場するガニメアンの肌がカバーのイラストを見る限り、いわゆる肌色をしています。 原作では薄いグレイとはっきりと記述があるにもかかわらず、あえて違う色にしたのでしょうか。それともガミラス星人のように、ちょっと後から肌色が悪くなるのかもしれません。
ゾラックの端末の描写の違い
これも二作目で登場するシーンなのですが、ガニメアンと交流するための情報端末をシャピアロン号に移乗してから装着するのですが、原作ではヘッドバンドという表現がなされています。しかし、コミックスでは最近流行のブルートゥースを使ったイヤホンセットのような描写に。
また、これらのヘッドセット様のものは地球人向けに急ごしらえしたちょっと不細工に見える記述が原作にはあるのですが、その点についての言及は一切コミックス側にはありません。

 他人の仕事をあげつらうのが趣味ではないのですが、ここまで元のストーリーやプロットと異なる上に、重要な描写が大きく変更されてしまうと違和感を通り越して迷子の子猫状態になりそうです。

 さあ、このあと、どのように収拾を付けてくれるのか、作者の力量の見所ともいえるでしょう。
 前回も書きましたが星野宣之作品として読めば面白いんですが、ホーガン作品として見てしまうとかなり残念な状態です。

既刊の記事はこちら
星を継ぐもの01

バカ本

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 密かにオオウケしてます。

ヱヴァンゲリヲン
 トニーたけざき著 角川コミックス・エース刊
 トニーたけざきのエヴァンゲリオン
 2011年10月4日初版発行
 ISBN978-4-04-715789-7

 実はこの本以外にもこの著者の本は蔵書にありまして、困ったものです(笑)。

 先行するパロディ本に「トニーたけざきのガンダム漫画(全3巻)」というのがありまして、ガンダム(オリジン)の美味しいせりふやシチュエーションを思いっきりパロディにしてしまう、邪悪にして狡猾な漫画です(爆)。

 ヱヴァンゲリヲンのファンでもマニアでもありませんが、いちおうネタとして劇場版なども見ていますので、それらを踏まえた上で見ていくと、この漫画も相当に強烈なパロディ。
 もう、始めのカラーページからしてバカ。笑わせてくれます。まず次回予告のパロディ連発。その上、最後のページで「さぁーて次週のエヴァンゲリオンは」とあり、おかげでサザエさんの次回予告は頭の中でこちらのパロディに切り替わるようになってしまいました。どうしてくれる!

 本編中もトニーたけざきワールドであり、もうおバカのオンパレード。
 この漫画を見て、碇シンジ育成計画をみて、貞本エヴァを読むと完璧です。いや、この順番は逆か。
 とりあえずヱヴァンゲリウォンのファンだろうが無かろうが、漫画としてバカ。モトネタを知っていれば百倍ぐらいは笑えそう。
 会社の帰りに購入して、列車内で読み始め、不覚にもニヤニヤ顔で何駅か過ごして我に帰り非常に恥ずかしい思いをしました。どうしてくれる!

 とまあ、良くあるパロディ本の常識を覆す本物以上に面白い漫画でした。

 しかし、器用ですよね、トニーたけざき氏。絵は似ているし話のポイントは抑えているし。対象の作品を愛していないとこんなには描けないと思います。
 オビには「ガンダム漫画のトニーたけざきが描く!"問答無用"のエヴァパロディ!!」とありました。まさにその通りです。
 この本を家に置いていたら、家人に「これを読んだら負けだ」とまで言われました。どうしてくれる!

星を継ぐもの01

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 おすすめか、おすすめでないか、それが問題です。

星野版
 星野之宣著 J.P.ホーガン原作 小学館ビックコミック刊
 星を継ぐもの 01
 2011年7月5日 初版第1刷発行
 ISBN978-4-09-18388-9


 昨年(2010年7月)に無くなった原作者であるジェームス・P・ホーガン(James Patrick Hogan)の一周忌のごとく刊行されました。
 作画は日本のハードSF漫画の大御所とも言える星野之宣。
 以前にもホーガン作品である「未来の二つの顔」(創元SF文庫刊)をベースとして同名の作品を描いていますが、今回も野心的な挑戦としてホーガン作品を漫画化しています。

星を継ぐもの
 J.P.ホーガン著 池 央耿訳 創元SF文庫刊
 星を継ぐもの
 1980年5月23日 初版
 ISBN4-488-66301-X


 原作本はこちらの東京創元社から創元SF文庫として刊行されており、現在は版を重ねて80版まで発行されているロングセラーでありベストセラーとも言える名作SFです。
 さて、ここからはネタばれになるので差し障りのある方は読み飛ばしていただいても結構なのですが、読む前のレビューと思って読んでいただければ手を出すかどうかの判断の一助となれば幸いだと思っています。

 前回の「未来の二つの顔」でも原作を逸脱した変更をしていたのですが、その時はエンディングが変更されていただけで、ほぼ原作に忠実に描かれていました。もちろん、ページ数の関係もありますので、かなりはしょられている事は否めませんが、ちょっとがっかりしていたのです。
 今回の「星を継ぐもの」では原作をなぞる事はおろか、ストーリー展開もプロットも変更して独自に描かれています。星野節だと思って読めば楽しめるのかも知れませんが。ホーガンファンとするとかなり許せない内容となっています。
 主な違いを列挙しますと・・・

グレッグ・コードウェルが女性に
国連宇宙軍(UNSA)の本部長であるグレッグ・コードウェルが男性ではなく女性になってしまった。原作では「彼」と明記されている。
ハント博士登場シーンの行き先が違う
ハント博士の呼び出された先がUNSAヒューストンではなくUNSAニューヨークになっている。原作ではトライマグニスコープの共同開発者であるロブ・グレイと同行となっており、IDCC本部からUNSAヒューストンへ二人連れ立っての移動なのだが、ハント博士単独で訪問している。
チャーリーって誰?
発見された遺体であるチャーリーの命名が隊員のボーイフレンドに似ていたことから付けられたとなっているが、本来は架空の人物を示す場合に使われる仮名としてのチャーリーである。日本の「山田太郎」と同じで特定人物を指しているものではない。
調査場所が違う
原作ではチャーリーは地球(ウェストウッド生物学研究所)に運ばれてから詳細調査に掛けれたのだが月で行われている。当然ながらハント博士も月に行ってしまっている。このおかげで、このあとのストーリーがどんどん原作とかけ離れてゆく。
標本消失の設定
チャーリーがハント博士の調査開始直後に月の調査施設において事故?で消失してしまっている。原作ではずっと調査が継続していて詳細がどんどん明らかになってゆく。
月の遺構発見の経緯
月の埋もれた宇宙人の遺構を見つけるのにトライマグニスコープが活躍してしまった。これはハント博士が月に行ったことに引きずられての設定だろう。原作ではトライマグニスコープは地球にずっとあり、遺構発見は月の調査隊のエコーによる発見だった。
グループLを無視
ハント博士が木星へ向かうまで、特命機関としてのグループLの活躍などの諸処の伏線がばっさりと削除され話が飛ぶ。この間は本の1/3ぐらいあるので、原作を読んでいる人は何がなんだかわからなくなる。
ジェヴレンがいきなり登場
謎の組織「国際平和委員会」が登場。これはこの巻の原作には一切設定が無い上、横槍を入れてチャーリーの調査を強引に引き継いでしまっている。原作ではハント博士らが長期間専任で調査にあたっていた。ジェヴレンの存在が早くも登場しているが・・・
続編のキャラクターがいきなり登場
ニールス・スヴェレンセンがすでに初めから登場しているが、実際はシリーズ3作目の「巨人たちの星」で登場する。
ガニメデの地球外生命体の年代が違う
ガニメデで発見された宇宙人の年代が100万年前となっているが、原作では2500万年前である。
ストーリーが前後
言語学班のドン・マドスンの詳細な報告は木星行きの船となっているが、ハント博士が地球にまだ滞在の際に行われた。

 いや、挙げだすときりがないのでこの辺りにしておきますが、もはやホーガンの原作というよりホーガンの原作をベースに、新たにストーリー展開したアンソロジーと言っても差し支えないほどの変貌ぶりです。
 現在連載中とのことなのですが、連載誌を見ていないためこの後どう収拾を付けるか想像できません。単行本でまとめられた状態では掲載巻が違う同じシーンなのに微妙に服装が変わっていたりするなど、一貫性にも不備が多数見つかります。

 ホーガンの作品をコミックスで読みたかった人にはお勧めできません。しかし、星野之宣作品を読みたい人は問題ないでしょう。ワクワクさせる星野ワールドそのものです。

 そういう状態ですのでお奨めでも、お奨めしないでも無く、という作品となってしまいました。
 私が読む本ではいつものことなのですが、これって重版するのでしょうか。もう、あまり店頭で見かけなくなってしまっているのですが。

続巻の記事はこちら
 星を継ぐもの02

グルメ本その2

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 以前ご紹介したエフェクター本の第2弾。

土日で作るオリジナルエフェクター2
 畑野貴哉著 リットーミュージック刊
 土日で作るオリジナルエフェクター2
 2009年2月初版発行
 ISBN 978-4-8456-1654-1

 とりあえず、肝の部品がヴィンテージ。
 配線材などもある程度指定があり、マニア向けエフェクターの自作指南の本です。著者はほとんどカリスマの畑野氏。
 と、なれば、もう必然的にマニアによるマニアのためのマニア向けエフェクター製作本です。

 電子回路うんぬんというより、実体配線図がメインの自作系電気本という印象が大きくあります。指定部品は大阪ではほとんど店頭入手できないものばかりが指定されており、秋葉原に足しげく通える人で無いと再現が難しいのが困ります。
 すでに入手した店舗の店頭在庫が希少な部品でさえ使われていますので、ほとんど自己満足の世界と変わらないのではと思わせられます。

 今回はなんと真空管を使ったブースターとリミッターが登場。
 電池では長時間の利用は限界があり、さすがに運用に無理があると思うのですが、あえてヴィンテージを求める姿勢を貫き、製作記事になっています。

 本文、製作記事として部費集めのハードルはかなり高いです。
 しかしながら、前述のように実体配線図を大きく掲載し、電気・電子の知識に長けていない人でも作ってしまえるよう、丁寧に書かれています。
 初心者のエフェクター製作のためのベストな本とは言いがたいですが、気軽に作りたいという人への低いハードルは賞賛に値します。
 前回の「土日で作るオリジナル・エフェクター」と同様、半田ごてをはじめて握る人でも作れるように説明が細かくあり、この本に記載の記事掲載によって自作エフェクターを始めた人が多いのは間違い無さそうです。

 ただし、オーディオ系の記事で何度も書いていることですが、「イイ音」というのは個人によって相違があります。ましてや個人個人の聴力の周波数特性も微妙に違うため、絶対的な数値やグラフによる評価基準よりも「感性で表現することが大切」なので、言ってしまえば誰でも評論家になれてしまうのがこの世界です。
 もちろん、権威となるにはそれなりに経験と知識をつまなければダメでしょうが、評論そのものは誰でもできます。グルメ系と同じく誰でもすぐに感覚として捉えることが出来るからです。

 やっぱりグルメ本かなあ。

冬でも美味しい

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うまいビールの科学

 キリンビール広報部 山本武司著 ソフトバンククリエイティブ刊
 サイエンス・アイ新書
 うまいビールの科学
 注ぎ方によって味が変わるって本当?
 「黒ビール」と「ふつうのビール」の違いはなに?
 2010年6月25日 初版第1刷発行
 ISBN978-4-7973-5598-7

 一番課税率の高い酒であるビール。税金を飲んでいると思うと悔しいのですが、美味しいのでさらに悔しい(笑)。子どもの頃は「こんな苦いもの、どこが美味しいんだ?」と思ったものですが、年齢とともに嗜好も変わりますし、「美味しい」の範囲も変わりますので、いまでは「美味しく」いただいております。

 書籍の内容ですが、著者がキリンビール広報部ということもあり、一番搾りの「一番搾り」たる由来も含めた一般的なビールの製法から始まり、ビールの飲み方、ビールの器、ビールの楽しみ方、世界のビールの紹介と来た後でビールの起源、日本のビール事情などと続きます。
 仕方が無いことではありますが、日本のビールの歴史はキリンビールが主体となって説明が進んでしまい、戦後の過度経済集中排除法、いわゆる財閥解体法により大日本麦酒解体により現在の日本のビール会社へ至る経緯はキリンビール(ジャパン・ブルワリーカンパニー)以外は非常にさらりとしか記述がありません。
 実際は大阪麦酒(アサヒビールの前身)と日本麦酒(ヱビスビール)、札幌麦酒(サッポロビールの前身)が三井主導で合併した帝国麦酒、さらにサクラビール、日本麦酒鑛泉(ユニオンビール、三ツ矢サイダー)を吸収して大日本麦酒として寡占会社となったあたりはぜんぜん無いので物足りない部分ではあります。

 全体的に著者が講師として主催されているビールセミナーで使われているテキストがベースになっているのではないかと思われます。語りかけの口調で書かれていたりするため、セミナーテキストを底本として纏め上げたのでしょう。
 巻末の参考資料に「もやしもん」があるのには驚きましたが。麦酒会社ならあの程度の事は調べ上げる手段も資料もあるはずだとは思うのですが。

 いらぬ見方をしなければ、普通に麦酒を楽しみたい人向けの楽しいテキストとしてみることが出来ます。ハーフアンドハーフを作った時にできる泡の色の違いのからくりや、ちょっと変わったビールの楽しみ方など、知ることでさらに呑む楽しみが膨らむものもおおく、参考になること請け合いです。

受験マニュアル

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 ある意味、受験マニュアルのような印象を受けます。

宇宙飛行士の育て方
 林 公代 著 日本経済新聞社刊
 宇宙飛行士の育て方
 2010年10月8日 第1版 第1刷発行
 ISBN978-4-532-31645-7

 丁寧な取材に基づく、日本の宇宙飛行士になるためのさまざまな情報がぎゅっと詰まった著書です。
 著者は宇宙関連の著作や記事なども多く、20年以上にわたって宇宙飛行士へのインタビューや宇宙関連施設への取材を続けているそうで、細かい内容に至る情報が満載されています。

 JAXAへ宇宙飛行士募集へ応募してから実際に宇宙を駆け巡る宇宙飛行士になるまでのさまざまな試験課程や、教育課程などが日本の宇宙飛行士へ視点を向けて取材・紹介されています。
 どのような部分で宇宙飛行士選抜が行われるのか、なにが求められているのか、何がダメなのかと、さまざまな情報が得られます。
 ある意味、日本の宇宙飛行士受験マニュアルと言っても過言ではありません。
 いままで行われてきた実際の課程の紹介や、試験官、また試験官として参加している日本の宇宙飛行士へのインタビューを交えて押さえどころが暴露(笑)されています。

 まあ、この本を読んだからといって宇宙飛行士になれるわけではありませんが、宇宙飛行士を夢見ている若い世代の人たちが読むと、より意欲がわくのではないでしょうか。
 この本の内容を見て落ち込むぐらいなら、すでに受験しても意味は無いと思えます。

 スペースシャトルの運用も終わりが間近でもあり、今後の宇宙でのさまざまなミッションは国際宇宙ステーションISSに舞台を移すことは間違いありません。ただし、ソユーズやスペースシャトルなどと違い、桁違いに広いエリアを擁するISSでは桁違いに関連する情報が増え、広範囲の知識と技術を要求されます。「きぼう」実験棟での実験ミッションに加え、ISSそのものの管理業務もあり、スペースシャトルより時間的余裕は出たものの、それでもありとあらゆる事をこなさないといけない宇宙飛行士の業務はますます多忙になるばかりです。
 私も10年、いや15年若ければどこかで実績を積んで応募したかもしれない。そう、思わせる本でした。

 いずれにしても宇宙観光時代の幕開けまではまだ、遠そうです。

 まあ、超常現象と言われるものはハナから信じませんが。

不可思議現象の科学
 久我羅内著 ソフトバンククリエイティブ刊
 サイエンス・アイ新書
 不可思議現象の科学
 〜心霊現象、UFO、超能力、生まれ変わりなど、その真実を科学の力で明らかにする!〜
 2009年10月24日 初版第1刷発行
 ISBN978-4-7973-4405-9

 とにかくオカルトや似非科学は大嫌いなのですが、それを解き明かすという主張も結構怪しかったりして、どっちもどっちという場合があります。
 この本の場合は種々の科学的アプローチを提示していますが、「〜説」や「〜仮設」のほか、「〜現象が原因ではないかと思われる」といったイマイチ決め手に欠ける論調なのが残念です。

 ともかくも人間の感覚が生み出した現象ですから、起因は人間の感覚器官である目や耳から得られた信号とそれらを処理する脳の中で生み出される事は間違いないのですが、その仕組み自体があまり解明できていない事から、どうも歯切れの悪い論調になってしまわざるを得ないのが難点と言えるようです。
 超心理学とか超常現象と同じ扱いにあるのが心理学だと思います。
 なにせこちらも判断する側が判っていない事を仮設もしくは論説して理論建てる訳ですから、本当のところはどうか判ったものではありません。フロイトもユングも実は判っていなかったか単なる思い込みの激しい人という可能性もある訳です。

 心の問題はロジカルにしようとすればするほど、主観と客観、事実と仮定の境界線が曖昧になってしまいます。

 とりあえず、心配事の原因は超常現象でもなんでもなく、ある程度理屈のつく説明があるようだと安心したい向きには良い本では無いでしょうか。

 何度も改版を重ねて読んでいます。

日本人がコンピュータを作った!
 遠藤 諭著 アスキーメディアワークス刊 アスキー新書
 日本人がコンピュータを作った!
 2010年6月10日 初版発行
 ISBN978-4-04-868673-0


 最初に刊行されたのが1996年に「計算機屋かく戦えり」という書名で出たのが最初です。その後2006年に新装版として新たに別本がでまして、そのあとの新書判でさらに改版を行ったのがこの新書での刊行です。
 新書判の紙数の制限もあるのでしょう。インタビューを行った記事が全部で10人としぼられています。
  • 渡辺和也(TK-80)
  • 岡崎文次(FUJIC)
  • 後藤英一(パラメトロン)
  • 喜安善市(MUSASHINO1号)
  • 和田 弘(ETL MarkIII)
  • 村田健郎(TAC)
  • 山本卓眞(FACOM100)
  • 平松守彦(産業政策)
  • 佐々木 正(LSIと液晶)
  • 嶋 正利(マイクロプロセッサ)
 括弧内はそれぞれの関わった製品や技術・施策などです。
 今回の新書判にあたって往年のマイコンブームの火付け役、ひいてはPC-8001、PC-9801という日の丸PCというかコンピュータのムーブメントを引き起こした原動力と言っても良いTK-80の責任者だった渡辺和也氏が加わっています。

 元本である「計算機屋かく戦えり」のなかからより抜きプラスワンという内容で、元本を知っていても楽しめますし、無くても十分楽しめます。
 全編はインタビューと取材を軸とした対談を含む記事形式で綴られ、当時のこれらの様々な事情を当事者の言葉からひもとくというタイムマシン的な内容で、直接その時代を知っているとたいへんワクワクした当時を思い起こさせてくれるでしょうし、知らない世代でも日本のコンピュータの黎明期を知るための貴重な資料とも言えます。

 こちらを読んでから、元本のさらに多くのエピソードを読み広げるのも手です。
 しかし、何度も買う方としてはちょっとずつ違う内容で出されるので、その度に購入は辛いですね。

グルメな本

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 読んでいてなにか違うとおもっていたらこれでした。

土日で作る
 畑野貴哉著 リットーミュージック刊
 土日で作るオリジナル・エフェクター
 2003年2月20日初版発行
 ISBN4-8546-0867-8

 知る人ぞ知る自作エフェクター界のカリスマ、畑野貴哉氏を知らしめた「サウンド&レコーディングマガジン」に連載されていた全52回の記事のうち製作記事31回から厳選した12回分をその後のフォローを含めて製作記事として再録したのがこの書籍です。
 ほとんどカリスマというか信仰の対象としているとしか思えないような人たちがいますので、なんともなのですが、オーディオの世界ですので主観が全てです。「イイ音」が絶対的であるかのごとく、イイ鳴りをするエフェクターの製作記事です。たぶん自作エフェクターの聖書でしょう。

 主となるのはいわゆるヴィンテージもの。昔の市販エフェクターの回路を踏襲して再現・改良を施したものを自分たちで作ってしまおうというわけです。

 そこで繰り広げられる内容が、このゲルマトランジスターがとか、このヴィンテージなコンデンサーがとか、ビンテージワイヤーで決まりとかなのです。
 どうも読んでいて、なんか違和感があったのですが、ハタと気づきました。
 グルメ本と同じなのです。
 この素材がどうのとか、調理法でこの手順が必要ですとか、この調味料が決め手ですとかと同類なのかと(笑)。

 そもそもの企画としてヴィンテージな機材の再現を目指している訳なので、部品入手姓が非常に悪いものをわざわざ指定して製作記事にしているため、どこそこの何々が味の決め手みたいな感覚と同じに感じてしまった訳です。
 評価の選定基準が「音が細い」「艶と伸び」「硬いワイヤーは音も硬め」などという表現で書かれており、ほとんど宗教と言った気もします。部品もどこの店で売っているどこ其処のメーカーのこの部品という指定が入り、それがなければこの音は再現できないそうです。

 確かに音響機器の場合、部品や線材を変更すると主観的な音が変わるときが多くあります。部品の電気特性が変わる事により結果として音となるべき周波数特性が変わるからでしょう。
 ただし、Hi-Fiを評価基準にするのでない場合、どの音が「良い音」かというのは主観によるわけですから、当然、評価する個人によって大きく変わる事になります。食材の指定が入手先を含めて指定されてるグルメ本と同じように部品の入手先が秋葉原の部品店舗を指定で、その店舗を回るための聖地巡礼マップ付き。
 指定の部品で製作しても、良い音でないと感じた場合、味音痴と同じでエフェクター音痴として烙印を押されてしまうのではないかという危惧がよぎりました。

 発行から相当年数が経っているため、指定の部品を入手するのは秋葉原でも困難さが伴いますし、ましてや日本橋を含めて地方都市であれば、通販以外で見つける事が出来なければ、ほぼ再現は無理です。
 まあ、半田の種類まで(Kester44指定とか)でないだけましでしょうか。
 面白く拝見はさせていただきましたが、制作意欲が沸かなかったのは、私がグルメ本を見て食べに行こうとあまり思わない性分だったのかもしれません。

 と、こんな記事を書くときっと文句が出るんだろうなあ。

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