本のタイトルそのままで、旧世紀(あぁ!なんて表現!)の実験心理学の足跡を追いかけた内容の書籍です。
ローレン・スレイター著 岩坂彰訳 紀伊国屋書店刊
心は実験できるか 20世紀心理学実験物語
(原題:OPENING SKINNER'S BOX Great Psychological Experiments of the Twentieth Centuly)
2005年8月31日 第1刷
ISBN4-314-00989-6
原題が示す「スキナーの箱」から章立てがスタートしていますが、これは現在の脳機能の調査や実験心理学の現場でも見られるもので、対象を閉じ込めて隔離し、そのなかで特定の条件について強化を行い課題を解決させるようになるかという実験のことです。
さらに、
・権威付けされた命令で人は他人を傷つけることができるか?
・精神科医は精神病のふりをした正常者を見抜けるか?
・精神関連薬物の依存性はほんとうなのか?
・信じられないことが起こった場合は信じることができる理由を見つける
・記憶の汚染や誘導により偽の記憶を思い出すことができる
・非可逆的に脳神経に損傷を与えることで人はどうかわるか
などの非常にセンセーショナルともいえる実験とその結果などを追跡しています。
誰もがi一度は思っても実際にしてみようかとか、実行しようとはしないと思われる、仮病の精神病患者の入院。入院させられた後に正常に戻ったと主張して完快を認められず(元々正常なので、おかしいと言われる方がおかしい)なかなか退院させてもらえないという覆面実験が興味深かった実験です。
その後、実験を行った著者が精神科を持つ病院から挑戦状を叩き付けられ、今後何カ月かの間に仮病の患者を送り込むという返答をした結果が一番面白い結果を得た事です。誰も送っていないにもかかわらず3割の偽患者を見つけたと返答があったと。すなわち精神科医が判断する患者と正常者の境界線は幅が広く限りなく薄い箇所から濃い箇所までのグレーゾーンが存在するという事です。
それらを逆手にとって刑法第39条を悪用する輩が出るのもうなづけます。
心というのは心理学以外では精神医学でも実験の対象になりうるのですが、どちらにせよ心の調査を行うと調査対象が変化して2回目以降に同じ結果を得ることができないという問題があります。
私は人間の心の状態は本当に数値化や定式化するというのは相当期間、有用な結果と関連付けをできないのではないかと思っています。本当のところがわからないのにわかったような判断をしているとしか思えません。この実験にも在るように都合のよい理由を選択する(私も?)傾向があるためです。
ユングやフロイトなどが築き上げた学問体系も全ての社会環境や人種に当てはまるとは思えませんし、心理テストや精神分析は信用しない性質なので、このような実験に潜む人の精神をテストするという精神状態について大変面白く読ませてもらいました。
裁判などで最近は良く行われる精神鑑定なんて本当に「鑑定」できるの?というのが正直な気持ちです。おかげで刑法「第39条 心神喪失者の行為は、罰しない。」を悪用する輩が出る始末。また、2項には「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」とあり、最近は減刑する理由としてすぐこれを提出する傾向があります。罪を認めて人を憎まずと言いますが、被害者はたまったものではありませんよ。